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風に連れられ旅をする… 旅人 清火(さやか)の写真+言葉
by kazeture
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ユートピア

ユートピア_a0006008_11453639.jpg

6週間前骨折で入院していたとき8人部屋にいたのだが
ある夜ヨッパライのおばさんが乱入してきた(そのときにも一度書いた)。

夜で消灯時間も過ぎ、真っ暗でシーンと静まりかえる中に突如バタバタと音がして
ぼくのふたつ右のベッドのおっさんのとこに来て
「こらーっおっさん!こんなとこでなにしとるんや!」
「なにって…ほね折って入院してるんやがな」
おばさんは泥酔してる模様。おっさんの妻っぽい。
真っ暗な中、声だけがとどろきわたる。
「あ?ほね折ったくらいでなに甘えとんねん、こらーっ」
「いったー!いたたたた」
おっさんにつかみかかってるらしい。
看護婦さんが飛んできた。
「なにしてるんですか!ほね折れてるんですよ?」
「くわーっうるさい!おっさんなにごろごろ寝てんねん?!さっ帰るぞ!」
「いたいっちゅうねん!」
無理矢理連れだそうとしてる。おっさんはほねが折れたてで一番痛い時期。
看護婦さんが強制的に外におばさんを連れていった。
廊下からおばさんの叫び声が聞こえてきた。

何分かして、警察官がやってきておばさんを連れていこうとする音が聞こえた。
警察官「さっ、行くよ」
おば「あっ、迎えに来てくれたん?」
(ふたりは顔見知りらしい。よくあることなのかも)
け「……。はやく。行くよ」
お「うん…行ってもいいけど…すき家に連れてってくれへん?」
病院の近くにすき家があるのだ。牛丼屋さんの。
け「……」無言で引きずってゆく。
お「すき家いこー。すき家いこー」
おばさんのルンルン♪とした楽しそうな歌うような声はエコーがかかりながらだんだん小さくなり闇の向こうに消えて行った。


すきやいこー
すきやいこー…

すき家に行きさえすればすべて救われる。
そんなイメージが漂っていた。



実際、そのすき家は外の世界の象徴のようにそこにあった。

病室の窓から外を眺めると、まずすき家の看板が目に入ってくる。
それからその向こうに、市役所や、中学校や、家並みや、山といった風景が展開してゆく。

外の、自由な世界との境目、接点のところにすき家があったのだ。

ベッドで身動きもできないものにとって外は憧れの地だが、その象徴のすき家はユートピア…理想郷のように光り輝いて見えた。

すきやいこー
すきやいこー…





さてその後退院して先日、リハビリの帰りについにそのユートピア・すき家にぼくはひとりで松葉杖で入りこんだ。

皿を割って以来初めて外食する。ウキウキ。

すきやいこー
すきやいこー♪


円卓状のカウンターになった席につくと
そこにおっさんが鈴なりになっていた。
ぎゅうぎゅうづめのおっさんたち。

どのひとも暗い。死んだカニのような目。昼12時のサラリーマンたち…

どよーん…

うおわーうおわーどうしたおっさん?!

最近ぼくが出会う人々というと、リハビリに通う人たちだ。

リハビリな人たちには、生気がある。

生きるという方向に向かうきらめきが、多少なりともある。

そのリハビリ室からすき家に直行したら、こうなっていた。

ぼくはおろしポン酢牛丼を注文した。

持ち帰りの客も含めこみこみで、なかなかこなかった。

となりのおっさんとの距離が極度に近い。

となりのおっさんは「極貧ゆすり」をしている。
極貧ゆすりとは…?はげしい貧乏ゆすりだ!
なんかストレスをかかえてるのかな。
それが、かかっている音楽と同調しはじめた!ノッてきてる。
ノリノリ極貧ゆすり!
ストレスとポップミュージックの相乗効果でたいへんなことに。


ここまでおっさんを羅列され、そこに紛れ込むと、俺もおっさんにならざるをえない。

俺はおっさん!
俺もおっさん!
事実、年齢はおっさんだぜ!
ウキウキ♪

俺たちは分かちがたく結びついてる!


おろしポン酢牛丼がキターーーッ!

ひややっことみそしるつき。

大根おろしをかけて…さっぱりしてるなぁ。

ぼくはそれらを楽しみながら平らげ、店をあとにした。

12時のすき家カウンター席…鈴なりのどんよりおじさんが見れま〜っす。




病室から見たらユートピア。
昼12時の働くおっさんたちには…単にメシをかきこむ場所。

ふるさとは遠くで想うもの。
ユートピアは心で想うもの。
心の中にはずっと…ユートピアとしてのすき家が…。




ま、その場所がどうであれ、
松葉杖でひとりで外食できるようになってよかった。
by kazeture | 2010-03-29 11:45 | Comments(0)
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