風に連れられ旅をする… 旅人 清火(さやか)の写真+言葉
by kazeture
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ユートピア

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6週間前骨折で入院していたとき8人部屋にいたのだが
ある夜ヨッパライのおばさんが乱入してきた(そのときにも一度書いた)。

夜で消灯時間も過ぎ、真っ暗でシーンと静まりかえる中に突如バタバタと音がして
ぼくのふたつ右のベッドのおっさんのとこに来て
「こらーっおっさん!こんなとこでなにしとるんや!」
「なにって…ほね折って入院してるんやがな」
おばさんは泥酔してる模様。おっさんの妻っぽい。
真っ暗な中、声だけがとどろきわたる。
「あ?ほね折ったくらいでなに甘えとんねん、こらーっ」
「いったー!いたたたた」
おっさんにつかみかかってるらしい。
看護婦さんが飛んできた。
「なにしてるんですか!ほね折れてるんですよ?」
「くわーっうるさい!おっさんなにごろごろ寝てんねん?!さっ帰るぞ!」
「いたいっちゅうねん!」
無理矢理連れだそうとしてる。おっさんはほねが折れたてで一番痛い時期。
看護婦さんが強制的に外におばさんを連れていった。
廊下からおばさんの叫び声が聞こえてきた。

何分かして、警察官がやってきておばさんを連れていこうとする音が聞こえた。
警察官「さっ、行くよ」
おば「あっ、迎えに来てくれたん?」
(ふたりは顔見知りらしい。よくあることなのかも)
け「……。はやく。行くよ」
お「うん…行ってもいいけど…すき家に連れてってくれへん?」
病院の近くにすき家があるのだ。牛丼屋さんの。
け「……」無言で引きずってゆく。
お「すき家いこー。すき家いこー」
おばさんのルンルン♪とした楽しそうな歌うような声はエコーがかかりながらだんだん小さくなり闇の向こうに消えて行った。


すきやいこー
すきやいこー…

すき家に行きさえすればすべて救われる。
そんなイメージが漂っていた。



実際、そのすき家は外の世界の象徴のようにそこにあった。

病室の窓から外を眺めると、まずすき家の看板が目に入ってくる。
それからその向こうに、市役所や、中学校や、家並みや、山といった風景が展開してゆく。

外の、自由な世界との境目、接点のところにすき家があったのだ。

ベッドで身動きもできないものにとって外は憧れの地だが、その象徴のすき家はユートピア…理想郷のように光り輝いて見えた。

すきやいこー
すきやいこー…





さてその後退院して先日、リハビリの帰りについにそのユートピア・すき家にぼくはひとりで松葉杖で入りこんだ。

皿を割って以来初めて外食する。ウキウキ。

すきやいこー
すきやいこー♪


円卓状のカウンターになった席につくと
そこにおっさんが鈴なりになっていた。
ぎゅうぎゅうづめのおっさんたち。

どのひとも暗い。死んだカニのような目。昼12時のサラリーマンたち…

どよーん…

うおわーうおわーどうしたおっさん?!

最近ぼくが出会う人々というと、リハビリに通う人たちだ。

リハビリな人たちには、生気がある。

生きるという方向に向かうきらめきが、多少なりともある。

そのリハビリ室からすき家に直行したら、こうなっていた。

ぼくはおろしポン酢牛丼を注文した。

持ち帰りの客も含めこみこみで、なかなかこなかった。

となりのおっさんとの距離が極度に近い。

となりのおっさんは「極貧ゆすり」をしている。
極貧ゆすりとは…?はげしい貧乏ゆすりだ!
なんかストレスをかかえてるのかな。
それが、かかっている音楽と同調しはじめた!ノッてきてる。
ノリノリ極貧ゆすり!
ストレスとポップミュージックの相乗効果でたいへんなことに。


ここまでおっさんを羅列され、そこに紛れ込むと、俺もおっさんにならざるをえない。

俺はおっさん!
俺もおっさん!
事実、年齢はおっさんだぜ!
ウキウキ♪

俺たちは分かちがたく結びついてる!


おろしポン酢牛丼がキターーーッ!

ひややっことみそしるつき。

大根おろしをかけて…さっぱりしてるなぁ。

ぼくはそれらを楽しみながら平らげ、店をあとにした。

12時のすき家カウンター席…鈴なりのどんよりおじさんが見れま〜っす。




病室から見たらユートピア。
昼12時の働くおっさんたちには…単にメシをかきこむ場所。

ふるさとは遠くで想うもの。
ユートピアは心で想うもの。
心の中にはずっと…ユートピアとしてのすき家が…。




ま、その場所がどうであれ、
松葉杖でひとりで外食できるようになってよかった。
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by kazeture | 2010-03-29 11:45 | Comments(0)

サクラサク

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サクラが咲いてるよ〜

咲きほこってる

けっこう すごい


(京都府八幡市 石清水八幡宮 境内の情景)





去年の今ごろはインドシナ半島

ラオス〜ベトナムあたりをさすらっていて

あまり季節感もないひたすら暑い常夏の地

サクラの花など望むべくもなく

ただ日本を想っていた

サクラの代わりにハスの花を見ていた…

ハスもいいけど

やっぱり四季のある日本はおもむき深い





今年は去年とは逆に

どこにも行けない

家にこもってリハビリしている

2月10日以来、ぼくは自分の町から出ていない

どこにも行けない

けど

サクラは見れる

ぼくが生まれた町にいくらでも咲いてる

今年はたくさんのサクラを目ん玉に映そう。
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by kazeture | 2010-03-28 18:41 | Comments(0)

リハビリ風景

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写真1:松葉杖、一本になりました。小雨の中を歩く。

写真2:リハビリ風景。ひざ上に茶丸、ひざ下に青丸。




今日はリハビリについての日記です。



小雨でも歩くよ〜。病院からの帰り道。

歩けば歩くほど、筋肉が付いてくる。

筋肉が付くと、左足に体重かけてもぐらぐらしなくなってくる。




昨日のリハビリのときに
ひざ曲げ
105度
行った!

曲がり期が来たのか?

このままどんどん行ってほしい。

ひざよ曲がれ!




で、それから
仰向けに横たわった状態で
左足を上に持ち上げることができなかったのに
昨日
とつぜん
できるようになった!

これはうれしかった。

仰向けに寝て、足をピョコッと上に持ち上げることができない
のは
非常に不甲斐なかった…


しかし、それこそが
ひざのお皿なしではできないことだった。

つま先から太ももまでピーンと保つにはひざのお皿が不可欠。

傷ついてはじめて君のいる意味を知ったよ!

お皿くん。

回復してくれてありがとう…。




また、家の部屋で
立っていて、なにげに左足で座布団をちょいちょいと横にどかすということが…
できるようになった!

退院して部屋で過ごしはじめたころ、
立ってて右足を軸にして左足で座布団をちょいちょいと横に動かせない(その力が入らない)…と知ったとき走った衝撃。

そんな、今までなんにも考えずにできてたことができない。

なんでもないことができない…それは気持ちをへこませた。


それが苦節一ヶ月…
ふふふ…
もう俺は左足でちょいちょいと座布団を動かせるぜ…。




さて
「リハビリ風景」だけど、
ぼくは自分の部屋で最近しょっちゅうこの体勢をとっている。

りょうちんがバランスボールを貸してくれた。
巨大な青い球。「青丸」と呼ぶ。

理学療法士さんにも、これを入手せよと言われていた。

仰向けに横たわってこの球の上に両足のふくらはぎをのせ、左足には力を入れずぶらぶらさせ、右足のかかとを手前に引く。
そうしてじわじわと左足のひざ曲げ角度を稼ぐという寸法である。

本を読んだりしてなるべく気をそらし、いつのまにか曲げてる…のがコツ。

よく見ると、左ひざの上になにか乗っている。
これは「茶丸」。

最近ぼくのペット化しててよくぼくの肩の上や首のうしろなどに乗っているのだが、
こいつもリハビリ秘密兵器である。

ネットで、同じ膝蓋骨骨折をした人のリハビリ日記(けっこうある。皿割り仲間たちがいる)を見ていたら
「『あずきのチカラ』を使ってあたためたら急にひざが曲がった!」
と書いてあるのを読んだ。

「あずきのチカラ」というのはあたため器の商品名で、
ぬのぶくろの中にあずきが入っている。
それを電子レンジであたためると、
蒸気を発してとてもあたたかくなり温熱効果抜群、というしろものである。

これを見たぼくはさっそく近所のキリン堂に行って入手し、使いはじめた。

めっちゃあったかい!

ぽっかぽか!

あずき…蒸気を発して…なんか、深くまでじんわり届く感じがする。(実際、そういう特徴があるらしい)

ぼくが買ったのはおなか用で、おなかにのせたり、首のうしろや肩の上にのせても気持ちいい。

これ、おすすめですよ〜。

あったかいというのはいいことだ!


そうやって青丸と茶丸のはざまでゆらゆら揺れている…。




ま、そんなこんなで
日々、リハビリに励んでる
春分過ぎのぼくでした。


桜は一、二分咲きです。
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by kazeture | 2010-03-24 22:37 | Comments(2)

傷あと

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あのな? 神さま。

なに考えてるん。

この傷あと。

ちょっと大げさすぎひんか?

こんな大げさな傷あと残す必要あるか?

なに考えてるんや、ほんま。



なんのつもり?

記念品か?

トレードマークか?

なにがあってもこのことを忘れるなって言いたいんか?

忘れへんがな!

こんなんなくても…。



しかし…

もし…

この傷が頬にあったら?

めっちゃコワいやろなぁ。
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by kazeture | 2010-03-22 21:54 | Comments(1)

レントゲン

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左ひざのレントゲン写真。

今日、病院で診察があり、撮らせてもらった。

ひとつめのが2月10日、転倒・骨折の直後の写真。
ひざのお皿がパカッと完全に上下に分離しているのが見える。
このレントゲン写真を撮るとき、台への移動や姿勢を変えるのがめちゃくちゃ痛かったのを思い出す。

ふたつめの写真が今日、3月20日の状態。
2月13日の手術で、金属棒が二本縦に(ひざのお皿の中を)通され、まわりをワイヤーで巻かれている。
そして今、割れた骨と骨の間のすき間を埋めるべく、少しずつあたらしい骨ができつつあるところ。

この金属棒とワイヤーが、見えないけど皮膚の下にひそかにある。不思議なものだ。

半年〜一年後に、様子を見てまたこれらの金属を取り出す手術を受けることになっている。




今日、はじめて松葉杖一本で歩いた。

もう、一本で大丈夫っぽい。

松葉杖二本時代から一本時代への移行。




それから昨日、リハビリ中にひざ曲げ角度が
「100度」
まで達した!!

やったー!

リハビリが始まってから直角あたりまではスムーズに進んでいたのだが、95度に到達してから10日間ほど停滞していた。

も…もしや…、ここで固まってしまったのでは…?
もしかして一生このまま…?

と、ひとりで悶々としてたんだけど、
またふと曲がりだした。

曲がるときは曲がる。
曲がらないときは曲がらない。

できたらこのままどんどん曲がってほしい。
正座したり、いろんなポーズをとったり(ヨガ的なやつとか)、ひざを曲げて山を駆け上がったり、したい。

でも、もし万が一途中で曲がらなくなったとしても、
それならそれでその、ひざの曲がらない人生を生きようと思う。

新世界を愉しみながら和式トイレには困りながら…。




一週間前から、リハビリ通院の帰り道を歩きはじめた。

バスで6分、普通の徒歩で20〜25分かかる道のりを、松葉杖で歩いて帰ることにした。(行きはバス)

とにかく歩いたりして左足を使わないと筋肉が付かない。
歩くにかぎる。

はじめ、それに挑戦するときは冒険の旅に出るかのような気がした。

よく知ってる道でも、かつてないゆっくりさでかつてない格好で行こうとするときにはなにが起こるのかわからず、不安感が出てくる。

信号、横断歩道、車、道行く人たち、それらのものの中にこの状態で突っ込んでゆく。
どうなるだろう…?


実際にやってみたら、それはそんなに大変なことでもなかった。

邪険にあつかう人もいないし、やさしく声をかけてくれる人はいるし、雲だの花だの木だのお地蔵さんだのキノコだのを見つけながら楽しく行くことができた。

一時間かけて家に着いた。

ものすごくゆぅーっくりなペースなのだが、それがおそいというふうには感じない。
これがぼくのペースだというだけ。

これからも熱心に散歩ばかりしていようと思う。




今、「歩けるようになる」ってことだけにフォーカスしている。

が、この状態では当然だろう。

歩けない、というのはぼくにとっては大変なことだ。

歩ける…それはすべてのはじまり。




だから、それ以外のことは意識の外にあり、イベントやライブで歌わないかというお誘いももらうけれど、全部おことわりしている。

誘ってもらうのはありがたいのだけれど…

そのようなこと、誰かに向かって歌ったりすることに意識が向かない
と同時に、
「以前それをしてたから」という理由だけでは、もうしない。

いまのぼくがなにをしたいのかにかかる。

以前してたからというだけでは、しない。




春がきて風が吹いて何かが取り払われ
雨が降り太陽が射してあたたまり、
なにが芽吹くだろう。
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by kazeture | 2010-03-20 20:13 | Comments(0)

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ひざの皿が割れた

そのとき

ものすごく強い力が働いて

ぼくのそれまでとそれ以後は断ち切られた




激痛の嵐によって

それ以外はなにもなくなった



それ以外は

なにも





で、いま

ひざに対する意識

歩けるようになりたい

ってこと

以外、なにもない




どこに行きたいも

だれに会いたいも

なにをしたいも

ない




歩けるようになりたい





取り払われた

強い力で




ぼくは以前から

余計なものを取り払うのが好きで

なにかを取り入れることには興味がなかった




もとから取り払うのが好きで

さらに今回

もう一回

なぎはらうように

根本的に考えろと




ほんとうにひつようなことはなにか?




自分のことしか考えられず

だけど

それで大丈夫だった




ぼくがいなくても世界はまわる

ぼくが助けなくても誰も困らない




ぼくはぼくのことをしていたらいい

ぼくはぼくのことをしていたらいい

ぼくはぼくのことを





取り払い

なぎはらい

ゴウゴウと嵐が吹き

そしてそこに

のこるもの

あたらしくうまれるもの

それを見る






今回の「取り払い」は

とてもよかった




ありがとう
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by kazeture | 2010-03-18 23:41 | Comments(0)

麻酔が効く前に手術された男

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手術室の思い出。(手術は一ヶ月前、2月13日)


手術はいやだけど、どうしようもない。

ひざのお皿がまっぷたつに割れて分離して、五ミリくらいすき間があいてしまってるし、手術で寄せ集めるしかないのだろう。
自分が自転車でコケてそうなったんだし、しかたない。

手術という未知な、コントロールの効かない世界に行くし、ジタバタしてもしかたないからまな板の上の鯉みたいにおとなしく観念して力をぬき、されるがままになるしかない。

あがいたり葛藤したりしてもどうにかなるものではないのだ。

そんな感じで手術の時を迎えた。



手術がはじまる時刻のころ、りょうちんが到着した。

そのときぼくはすでに病室のベッドからストレッチャー(移動ベッドのようなもの)に移されていた。

そんで頭を白い布で覆われてた。
その頭を見てりょうちんは
「おきなわの人みたい…!」
と言った。
「おきなわ…?」
「うん」
会話らしい会話はそれくらいだった。

りょうちんが一枚写真を撮った。
力なく手を振る。(添付の写真)

そんでぼくはストレッチャーに乗せられたまま、看護婦さんに押されて一階下の手術室まで運ばれて行った。母とりょうちんもついてきている。

ストレッチャーに寝かされて運ばれる。
まわりの風景の見え方が面白い。
寝たまま水平に移動ってあんまりないし。

もう、この時点でコントロールを失ってる感じがある。
自分ではどうしようもない度が高い。

手術室の前にきて、すこし待機していた。
そのとき何を話したかは覚えてないが、そんなに緊張はしてなかったと思う。
煮るなり焼くなり好きにしてくれ、と身を任せる心境だったので。

別れ際にりょうちんは「グッドラック!」と言って親指を突き出すポーズをして、にっこりとした。

なんか大丈夫な気がした。




手術室に入ると、みどりいろの服を着た一団がいた。執刀医師のM氏、若い男、若い女、年配の女性、年配の男性、この五人が手術チームのようである。

手術台の上に仰向けに乗せられ、体を拭かれ、準備が整えられてゆく。

年配の看護婦さんがぼくの左肩のところにいて、なにかと話しかけてくれる。やさしい感じ。

ぼくの胸の上のところに仕切りが付けられ、手術してる場面が見えないようにしてある。

麻酔は「腰椎麻酔」といって下半身だけに効くもの。手術中も意識はある。

さて、その麻酔だ。

体を横向きにされ、仙骨の上あたりに小さい剣山みたいなやつが突き刺された。チクーッ! なにか知らないが、そんな剣山みたいな感覚。
そんでそのあと、液体のようなものがチョロチョロと体内に流し込まれた。
時間的にはすぐに済んだ。

それでしばらく時間をおいてから、麻酔が効いてるかのチェック。

なんか、ピンセットのようなもので足の皮膚をつままれる。いたっ!「痛いです」「痛い…?」「はい、痛い」「ここは?」「痛いです」「痛いのかぁ」
ってことで、再度、時間をおく。五分くらいか。

そんで、もう一度ためす。ピンセットで皮膚をつままれる。心なしか、さっきより鈍い。「ん…さっきよりは鈍いですがまだ感じます」「え、まだ? ほんと?」「はい」

看護婦さんがガーゼに液をつけたもので足を撫でる。「これ、感じる?」「はい、スースーしますね」「まだ感じるんだわ…」
おかしいな…というような空気が漂う。
え? 俺って異常者?

なんとなく「早く麻酔効けよ」って言われてるような、責められてるような気になる。
けど、ぼくにどうしろと…?

なんとなく「そんなに時間ないし待ってられないよ」って雰囲気。

チェックが続く。だんだん痛みの感覚は薄れてきてる気がするが、触られてる感覚はある。触られてる感覚も、完全に消えてほしい。

もうやろーぜ、はじめよーぜと誰かが思ってる。

ぼくは緊張してきた。

麻酔が効かずに手術されるなんていやだ…!

ところが、見切り発車された。

看護婦さんはこう言ったのだ。

「今から手術始めますけど、どうしても我慢できないくらい痛かったら言ってください。手術の途中で麻酔を増やすこともできますから」

「は、はひ…」



そのとき、電光のようにイメージが降ってきた。

過去か未来かわからない遠いところ。
アラスカかどこかの森の奥地を森の人(狩人)と一緒に歩いてて、ぼくが足を痛めてその場で麻酔もなしに緊急手術をすることになった…!
というイメージである。

ぼくはそういう気になった。

そういうことだってこの先あるかもしれないし、ごちゃごちゃ泣き言を言わずに乗り越えるために…これも経験だ!

立ち向かえ!

と思ってしまった。

よく映画とかにそういうのあるけど…ヒーロー気取りか、っつーの。



で、手術がはじまった。

ひざに一線、スーッとメスが引かれる。

ぐわぁぁっ!

普段の、二割くらいの感覚は残ってる!

痛い…! そして、気持ち悪い!

切開されてるゥ!

しかし二割だ、アラスカだと十割だぜ、耐えろ。アホなヒーローが耳元でささやく。

皮膚を切開したあとに…その皮膚の下にある何かを、どうにかしていた。
ぼく的には、スジをハサミで切っているような感じがしたが、切るとも思えないのだが…

とにかくその「何かをどうにかしていた時」がいちばん、おぞけが走るというか、身の毛がよだつような気持ち悪さを感じた。

いたきもちわるい…!

「んー、んー」とうなり、手のひらは汗まみれ。



そのあとの作業も、感じていた。

ぼくの手術は、横にふたつに割れたひざのお皿をくっつけて二本の金属棒を縦に通し、さらにまわりをぐるっとワイヤーで巻く、というもの。
大工仕事のようなものである。

ひざのところでトンテンカンテン大工仕事をしている感じ。それが骨を通じて伝わってくる。あんまり気持ちいいものではない…。

始まって十分ほど経ったころ、感覚は薄れ、そして消えた。

消えてからは、感覚はまったくなくなり、なにをされてるのか、なにかをしてるかしてないかもわからなくなった。包丁で突き刺されてもわからない。

始めの十分間、これが地獄だった…というか、苦しかった。

手術が終わるときに、若造が誰かに「60分の予定が70分になった」と報告していた。きっと時間が押してるんだろう。だから麻酔なんかで待ってたりできないんだろう。

ちなみに若造(若い助手的な医者)は若い女(医者のたまご)に「赤ワイン飲む?」と言っていた。手術のときに出たぼくの血を容れた器を見せながら言ってたようだ。ふざけるな! …ぼくの血、おいしそう?

年配の看護婦さんが最後に誰かに「手術の始めのほうは感覚があったようでした」と伝えていたのが聞こえた。




終わったらホッとした。

「大丈夫…?」
母とりょうちんが心配そうに見てる。
「あー、うー、生きてるよ」

顔はげっそりしていたはずだ。

そのげっそりのほとんどは、麻酔が効かないうちに手術が始まったことによる心労からきている。

逆に言うと、もし「麻酔効かない事件」がなければ、あまりにもスムーズに事が運んでしまい、スーッと通過してしまっていたろう。それでは面白いだろうか?

人生はスパイスがあってこそ面白いのだ。



あのとき、アラスカの森の奥地の緊急手術のイメージが急に降った。そこでヒーロー気分になるのはアホっぽい。でもそれこそが「立ち向かうぞ!」っていう気合いをくれた。だからアホっぽくてもぼくには有用だったのだ。

もしあれがなかったらもっとへこたれてぐだぐだ言い、へこんで醜態をさらしていたろう。

それに、麻酔をあんまり大量にかけられすぎるのも気持ちよくはないし…。

ってことで、あれでいいのだ。

いや〜、森の奥地の緊急手術みたいに珍しいもんを体験できて、よかった。



ぼくの場合は「珍しい経験ができてよかった」と思えてるからそれでいいってことにするとしても、ほかの人はあまり体験しないほうがいいだろう。

こういうことってあるのかな? と思ってネットで調べてみると(「麻酔が効く前に手術」で検索)、けっこう出てきた。そういう体験をして困った人はいるようだ。

いろいろ、うまくいきますように…!




以上、手術室の思い出ばなしでした。

転倒・骨折直後の痛み、手術中の痛み、手術後麻酔が切れてきたときの痛み、これらが今回の三大痛み体験です。(まだ、半年後に金属を抜く手術が待ってるけど!)

いまは痛みを感じることもあまりなく(無理な体勢をとらない限り)、リハビリで歩く距離を伸ばしてじわじわ筋肉をつけつつ、ひざを曲げる角度を少しずつ増やしていってます。




ほんとに、この骨折と手術って、それまで保ち続けてきた(つもりの)コントロールを失うという意味で、ぼくには死にも値するような感じだ。

ぼくはいつも統制が取れていることを重視する向きがあるから。

統制が取れ、何でも自分でできていることを重視していたのに、それができなくなった。

いったん死んであたらしく生まれたような心地。

以前とは違う人みたいになってる。
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by kazeture | 2010-03-15 14:59 | Comments(0)

とげとげ

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とげとげとげとげとげとげとげとげ
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by kazeture | 2010-03-12 11:47 | Comments(0)

松葉杖でコンビニ

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ひざのお皿を割って、明日で一ヶ月。
リハビリ生活を送っている。

週に四、五日病院に通い、理学療法士さんのリードのもと、
ひざを曲げたり、足を持ち上げたりする練習をしている。

左足に力を入れて踏ん張れないまま一ヶ月いると、だいぶん左足の筋肉は落ちて細くなってしまった。
こんなに早く落ちなくてもいいのになぁ。

で、じわじわじわじわリハビリを進める中で、ほんの少しずつひざのまわりに筋肉がよみがえりはじめ、
少しずつひざがしっかりしてきているようだ。

「少しずつひざがしっかりしてきてるな」
とかいうのはかすかな感覚だけど、なんとなくわかる。

「からだの声を聞く」とかいう言葉をよく聞くけど、たとえどうやって聞いたらいいかわからなくとも、聞く必要があるときにはおのずと聞こえるようだ。

それはリハビリ室にいる、どんなに老けたおじいさんや堅物のおじさんやヤクザ風味のおっさんであろうと、誰でも同じ。

みんながみんな、真剣に自分のからだの声を聞いている。

みんなが自分の体が何て言ってるのかを可能な限り言葉にして伝えてる。

その言葉を聞くのはなかなかいい。

自分と真剣に向き合ってる人の言葉は、いい。

逆に自分以外のもののほうへ反れて行く人の言葉は聞いてて面白くない。

リハビリ室に漂う真摯さは、なかなかいいよ。


さて、そこにいる一員のぼくだけど、
昨日、ひざが「95度」曲がった!

いままで90度以上は曲がらなかったのに、ついに直角を超えた。

うれしいなー♪

ほんとに見えるか見えないかの変化だけど、
長い目で見ると少しずつ進んでる。

さくらのつぼみがじわじわふくらんでゆくように。




一昨日、松葉杖で初めてコンビニに行った。

入るとき、自動ドアにはさまってしまうんじゃないか? とか考えたが、ドアが閉まるよりも先に前に進むことができた。

松葉杖をついてまでコンビニに来るとは…そんなにコンビニが好きなのか? と思われてるんじゃないかと思いながら店内を歩く。

週刊モーニングの「バガボンド」を立ち読み。
松葉杖を脇に固定して立ち、両手を使って雑誌をめくる。
武蔵がおつうと間違えて小太りおばさんの体をまさぐろうとしてた!

さらに店内をうろうろ歩く。松葉杖をつくと、けっこう幅をとる。コンビニの狭い通路では歩きにくい。自分が「じゃまな人」になったような気がしながら歩く。

グミを…われにグミを。
グミが欲しい。

わざわざ松葉杖をついてコンビニを歩き回り、グミだけを買ってく男。

どこまでグミが好きなのか…?

このグミという、世界にあってもなくてもいいような物を。

ぼくは入院生活で好きになってしまった。みんなが寝静まった病室で音もなく食べれるという点が最高。

そんでグミ・あおりんご味だけをつかみ、レジに向かう。

そもそも松葉杖をついてると、ほかのものが持ちにくい。

その持ちにくい状態でわざわざ苦労してグミを持ち、レジへ。

100円払う。

グミゲットぉー!

かくしてグミ男はコンビニから出た。




そのあとでバスに乗ろうとした。

「○ンステップバス」と書いてある。

当然いつもの「ノンステップバス」だろうと思ってたが、よく見ると少し違う。え?

「ワンステップバスぅ?!」

一段あるバスか!
噂には聞いてるぞ!

バスが横付けされた。
見ると、入り口にいつものノンステップバスにはない段がある。
むぅ…

よォォーし…

このとき、ぼくの目はいつもと違う状態になった。

目の働き方が変わる。

山の上でガスに巻かれたり暴風雨を突破して岩場を行くときの感じになってる。

そういう、全力で行くときには
まず目で見てルートを貫く道をつけるのだ。

眼光を発して道をつけ、そのとおりに通り抜ける。ということをする。

ぼくは自分がそんなふうになるとき、すなわち
全身の細胞が覚醒して難関を乗り越えようとするとき、
生きてると感じる。

その感じがやって来た。

そして段を越え、バスに乗った。


こんな平地で、それを味わうことができる。

有り難いことだ。

ケガは山の上を、平地の近所のバス乗り場に下ろした。




今日は寒い。

でももうすぐ春が来る。

さくらのつぼみもふくらんでいってる。
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by kazeture | 2010-03-09 15:51 | Comments(1)

あたまの上を

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くもがとおるよ!
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by kazeture | 2010-03-08 14:45 | Comments(0)