風に連れられ旅をする… 旅人 清火(さやか)の写真+言葉
by kazeture


2017年 07月 18日 ( 1 )

歩行10日目 激痛に襲われる

2017年5月2日
ヒマラヤ アンナプルナ一周トレッキング 10日目
マナン(標高3540m)にて

痛い。
なんか、すごく痛い。

目を開ける。
暗闇だ。
まだ朝は来てない。

時計を見ると、3:30。

左足の先が、めちゃくちゃ痛い。

ぐわぁ!
なにこれ?

んー。
ズキズキする。

動いたり、触れたりすると、すごく痛い。
静止してるとマシだが…。

左足の先と、足の裏。

ズンズン、ズキズキ。

真っ暗闇で、空気は冷たい。
その中で考える。

これは何だ?

凍傷か。

標高3500mを超えて酸素は薄くなり、雪が降るほど寒かった。
それで体が冷えて血流が悪くなり、心臓から遠い足先が冷えて凍傷になり、壊死しかかって痛みを発しているのではないか、と推測した。

凍傷しか、思いつかなかった。

そして、この激痛は、かなりただごとじゃなく痛かった。

それで、もう、「降りよう」と思った。

高度と冷えで凍傷を起こしているのだとしたら、降りるしかない。
高度を下げて酸素が充分あって気温の高い場所まで行けば、体温が上がって血流は良くなり、足先も元に戻るだろうと思った。

考えて、わりとすぐに決断した。

この先さらに登って5416mの峠を越えるのを目標にここまで歩いて来た。
でも、それはあきらめた。
あきらめざるをえなかった。

降りるなら早ければ早いほどいいだろう。
今から荷物を整理して、降り始めよう。

5:30に起き出す。

ベッドから足を出して、両足を床につく。
「いたッ!!」
左足の裏が痛すぎる。
足の裏を床に付けられない。
立てない。歩けない。
トイレ行けない。
ヤバいな…。
僕はそのまま、ベッドに腰掛けながら、荷物を整理した。

6:30、荷物はまとまった。
2本の杖を使い、おぼつかないながら、立ち上がる。
一歩一歩、そろりそろりと足を出し、じわじわ進む。
このホテルの3階のフロントまで行って、チェックアウトせねば…。

ん?
庭に、ムク犬が寝てる。
目が合った。
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寝ながら首だけ動かしてこっち見てる。
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のんきな犬だ…。

僕はまさしく這々の体(ほうほうのてい)でムク犬の視線の前を通過し、階段に取り付く。
階段の手すりにぶら下がるような感じで、じわじわと上がっていく。
途中、ドタバタと人が通り過ぎる。僕はなるべく普通の顔をしてやり過ごす。

3階に着き、食堂をゆっくりと突っ切って奥のフロントまで行き、支払いを済ませる。
僕は何気ない顔をし続けた。

その時点で僕は、歩いて降りよう、と思っていた。歩けないのだが。
歩くという方法しか、頭の中になかった。
だから、こんな宿の食堂あたりで弱音を吐いてる場合じゃない。
というわけで、冷や汗をかきながら普通の顔を装っていた。

だから、宿の連中は何も知らない。

また、ほうほうのていで一階まで降りた。
そして、ザックをかつぐ。
2本の杖をつき、足裏の痛みに悶絶し、大汗をかきながら、ヨタヨタと歩きだす。

バイバイ、ムク犬。

こんな状態のくせに、標高差にして2000mくらいを歩いて降りようと思っていた。何日もかけて。

僕は、登りの時ずっと、「車で行く」という方法を頭から除外していた。
それを頭に入れると、ややこしくなる。
だから「ヒマラヤは徒歩のみ」という単純なポリシーのもと、歩いていた。

ホテルの門を出て、5メートルほどだけ、頑張って歩いた。
そして、力尽きた。
もうムリと体が言った。
その時、人影が目の前に立った。
「ジープで降りれば?」とおじさんが言う。
その瞬間、僕の頭の中に「車で降りる」という概念が入ってきた。
僕はおじさんに「うん」と答えた。

おじさんは僕にいたわりの視線を向けていた。無理すんなよ、と。
だから僕も瞬間的にすんなり受け入れられたのかもしれない。

おじさんは「ベシサハールまで5000ルピー」と言った。
ベシサハールまで5000ルピー(5000円くらい)で行けるのか。
ベシサハール(標高760m)は、歩き始めた場所だ。
しかし僕は「うん」とは言わず「ピサンまで」と言った。
ピサン(標高3200m)までは、2000ルピーだという。
それで手を打った。

「ベシサハールまで」と言ってしまったら、その瞬間、そのひと言で、このトレッキングは完全に終わってしまう。
8日間かけて歩いた行程を1日で降りて、もう、おしまい。
だからその時「ベシサハールまで」とは言わず「ピサンまで」と言ったのだ。
ピサンまで降りて、様子を見ようと。

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7:40 ジープ出発。

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乗ってる間に考えて、標高3200mのピサンではなく、標高3060mのディクルポカリまで降りることにした。
ディクルポカリまでは2500ルピーだという。

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9:20 ディクルポカリ到着。

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登りの時にも立ち寄った、ホテルガンガプルナのレストランで、お茶を飲む。
テラス席で、とても日当たりがいい。

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足は痛む。

そこで日差しに温まりながら、どうするか考えた。
もう一度ほかのジープに乗ってさらに降りるか、歩いて降りるか、今日はこの宿に泊まるか。
結局、この宿に泊まることにした。

日当たりが良くて、今は暑いくらいに暖かいし、ここで温まりながらマッサージして、足湯もして温めたら、良くなるんじゃないか。

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凍っていたボカシオイル(バリ島のマッサージオイル)を日光に当てて溶かす。

左足に塗ってマッサージする。

左足首が浮腫み、ふくらんでいる。
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くるぶしの出っぱりがなくなっている。
足首もやけに太い。

午後、ずっと部屋のベッドに横たわっている。

夕方、トイレに行きたくなる。
左足を床につかず、右足だけで、ケンケンで行く。
ケンケンで行けるやん!と、発見した。
片足でも、歩ける。

ウンコをしたいのだが、ウンコ座りができない。
少し腰をかがめた中腰の、中途半端な体勢でウンコをする。
やりにくい。最後のほう、プルプルとふるえる。
左足は限界だった。
それでも、できてよかった。

食堂に行って宿のおねえさんに話し、明日、ベシサハールまで行くジープの手配を頼む。
明日、ベシサハールまで車で降りようと思う。

それから、おねえさんに自分の足の状況を説明する。
マナンで夜寝てたら足が冷えて、めちゃくちゃ痛み、歩けなくなったのだ、と。
そして、足湯をするのでお湯をちょうだい、と言った。
おねえさんは僕の容態を心配し、親身になって世話をしてくれた。

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足湯は気持ちよかった。
足首がポワッと桃色になり、血行が戻っている。足指もピコピコ動く。
気持ちはよかった。のだが、足先は相変わらず痛い。

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水筒に、熱湯を1リットル入れてもらう。
それを寝袋に入れて湯たんぽにして寝るつもりだ。

夜がやって来る。
3000m。夜。冷え込む。
大丈夫だろうか?

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その夜、日記にこう書いている。

「火の玉を燃やせ。冷たい3000mの夜だ」

そうだ。いま燃やさなくて、いつ燃やすんだ?
自分の中の火の玉を。

気持ちが状況を変える。
なら、今こそ。

全身全霊で燃えて、あったまって、ぶちあたれ。

夜の冷たさ、血の流れの悪さ、死にゆく細胞、そんな流れとは逆の回転を起こせ。

気持ちの中から、生み出せ。

心の力で行け!
火の玉になれ!

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そうして、眠りについた。

湯たんぽは機能していて、あったかい。

部屋の空気はかなり冷え込んでいる。

なかなか眠れない。

足先が痛くて、眠りづらい。

原因不明の激痛、ガタガタ強まる風の音、冷えてゆく空気、たった一人の暗闇。
オレはこの夜を越せるのか?

この夜が越せるか…。

だんだん、うつらうつらとしてきた。

その時、僕はある行動を取った。

不思議な行動を。

真っ暗闇の寒気の下、布団と寝袋にくるまった中で。

僕は、自分の作った歌、「まちあわせ」を、英訳して歌い始めたのだ。

英語がとても苦手なのに。

でも。僕は心残りだったのだ。

このまま死んだら。

ある国で、ある女性に、「歌を聞かせて」と頼まれたとき、僕ははぐらかして歌わなかった。

英語の歌詞があったら、と思った。

そんなことはすっかり忘れていたが、この瞬間ふいに出てきた。

「もう死ぬかも」となったから、初めてできたのかもしれない。
「この夜が越せるかわからない」という状況だからこそ。

きみとぼくは まちあわせて 
道なき道 あるきだした

You and me met a meeting point
we go walking no way road

…という具合に、でたらめに歌った。

いったい何なんだ。
何をやってるんだ。
この苦しい、痛い、辛い状況の中で。

何だか知らないが、そうなっていた。

そして、いつのまにか、眠っていた。




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by kazeture | 2017-07-18 21:43 | ネパール2017 | Comments(3)