風に連れられ旅をする… 旅人 清火(さやか)の写真+言葉
by kazeture
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歩行11日目 激痛2日目 地獄ジープ

2017年5月3日
ヒマラヤ アンナプルナ一周トレッキング 11日目
激痛 2日目
ディクルポカリ(3060m)→ベシサハール(760m)

朝、起きる。
と、いうことは、僕は生きてるということだ。
生きてるぞ。

左足先の痛みが、減っている。
と、思ったら、右足先が痛くなってきた!
うわ、なんで?
左から右にうつった?!(「伝染る」&「移る」)
幸いにして左は痛くなくなりつつあるが、同時に右がめちゃくちゃ痛くなってきてしまった。
うぎぃぃぃぃ。
トイレに行きたい。
立ってみる。
杖を一本使って、おそるおそる歩く。
左があまり痛くないため、なんとか歩ける。
もし、両方同時に痛んでたら、動けなくなってるところだ。

右足の裏の土踏まずあたりに、激痛が走る。

これは、いったい、何なんだ。

僕は一応、凍傷だと思っているが、左から右への移動など、わけがわからない。

しかたない。
それでも行くしかない。
生きて行くしか。

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ゲストハウスのレストランでお茶を飲みながら、ジープを待つ。

「足はどんな具合?」と、ゲストハウスのおねえさんが聞いてくる。
「まだ痛いけど…なんとか歩けるよ」と僕は笑う。
このおねえさんが優しい感じで、だいぶん救われた。
僕が足を痛めたからこそ、その優しさに触れることができた。

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「気をつけてね」とおねえさんに見送られ、ジープに乗り込む。
(乗り込むのもひと苦労だ。大きな段差を登る時、片足だけでは難しい。が、なんとか転がりこむ。僕は助手席だった)

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8:30 ディクルポカリをジープで出発。

このあたりの道は、舗装などは全くない。ガタガタ道の連続だ。しかも、そのデコボコ度合いは、ズバ抜けている。
ヒマラヤ3000mの高地の道路だ。ネパールという貧しい国の。だから、デコボコなのはまあ、当たり前だ。
その、極度のデコボコ道を、思いっきりガタガタ揺れながら行く。
僕は、右の足の裏が床に触れると、激痛が走る。
それが、極度のガタガタ道なので、足裏が床に「突き当たる」というか「強くぶつかり続ける」ようなことがしょっちゅうあり、もう飛び上がるほど痛いのだ。

右足裏が床につかないような工夫をいろいろしてみたが、それが案外難しい。右太ももの下に手を入れて足裏を浮かす。のだが、5センチくらい浮かしてても、10センチくらい上下に揺れるので、床にぶち当たる。

そんなわけで、「床に足裏がぶち当たる」という地獄を味わい続けながら、降りて行った。

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地獄が、もうひとつあった。

乗客は僕以外に3人(みな20代前半くらいの若いネパール人。後部座席に並んでる)いて、ひとりだけ女性。3人は知り合いのようで、会話している。
この女性が僕の真後ろに座っていて、めったやたらにうるさいのだ。
大声でマシンガンのように怒鳴りながら話し続ける。
全く途切れることなく、わめき続ける。
何なんだ、これは。
こんなうるささを、経験したことがない。
なんというか、声の出し方が異次元というか、叩きつけるように爆発的に怒鳴りつけるように矢継ぎ早に話し続け、しかも全く休まない。
となりにいる男にしゃべっているようなのだが、その男は時々生返事するだけで、基本、女が一方的にしゃべり続ける。
僕はその機銃掃射をモロに至近距離で後頭部に受けて、ぐったりしてしまった。

足がガタガタぶつかって涙が出るほど痛く、頭は機関銃にぶち抜かれてフラフラ。
そういう二つの地獄を味わっていた。

さて、ある場所で、乗客男がひとり下りた。

後部座席には、うるさ女一人と、もう一人男が残っている。

車が走り出す。
女の機関銃がまた始まるかと思いきや、何も言わない。静まり返ってる。
おかしいな。
後ろのふたりは時折り会話を交わしはするが、女の声はさっきとはうって変わってふにゃふにゃしたやる気をなくした声で、何と言ってるか聞き取れないほど小さい。

え?どういうことだ?
と思った。が、僕はピンときた。
女は、さっき下りた男が好きなのだ。
で、張り切りまくり、話しまくっていたのだ。
だって、なんか様子おかしかったもん。
高揚しすぎて、ハイになって、ちょっと異常やったもん。
なるほどな…。と、僕はひとりで思っていた。

そして、車がドライブインに着いた。
そのドライブインの中に、さっき下りた男がいた。(バイクに乗って来たらしい)
女はその男を発見すると喜んで近寄り、また嬉しそうに機関銃を始めた。

しかしな…あそこまでうるさいと、男も逃げて行くと思うよ。
もうちょっと静かにしといて欲しいと思うんじゃないかな…。
と僕は思うが、どうなんだろうか。

しかし、あの異次元機関銃しゃべりを聞けたのは、ある意味で貴重だった。

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(足首がムクんで太くなってる)

車は、途中2回ドライブインに停まり、チェックポストも2〜3ヶ所あった。
そのたびに僕も下りてお茶を飲んだり、チェックポストにトレッキング許可証を持って行ったりしたが、歩くのがとてもつらかった。
昨日よりつらい。痛い。
あぁ、ほんとにこれ、何なんかな。

一度、チェックポストにヨタヨタ歩いて行ってる時、車の中の乗客男が僕に向かって、「May I help you?」と叫んだ。
僕はほんとは、肩を貸してほしかった。
だけど、「いや、何もないよ」と答えてしまった。
僕は、自分が歩けないこと、自分がしょぼい存在になってることを、世界に表明することがこわかったのだ。
それで、やせ我慢をし通した…。

車はガタガタ道をどんどん下りてゆく。
僕が登りの時に通った、好きだった風景、好きだった道、好きだった集落を、歩きと比べればあまりにも速いスピードで、瞬時に通り過ぎてしまう。
それで僕はしんみりした、哀切な気持ちになっていた。
僕の旅のスピードとして、車は余りにも速い。
しかし、右足は激痛にさいなまれ続けていて、どうしようもなかった。
車に乗っているしかなかった。

運転手は19か20歳くらいのネパール人の男だったが、大変頑張っていた。
あのガタガタ道を、揺れを最小限にするよう気を配りながらノンストップで何時間も運転し続けるのはほんとうに大変だろうと思う。
めっちゃタフなヤツだ、と感心した。

最後、目的地ベシサハールに近づく頃、ようやく道が舗装路になった時。
彼は「キャッホー!」という感じで、嬉しそうにぶっ飛ばした。
その気持ちはよくわかった。
ガタガタ道では「飛ばす」なんて全然できないから…。

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しかし、それにしても、こんなに激痛を感じ続けながら下山するなんて。

もし、山の上で手厚い看護を受けていたとしたら、どうやって下山することになっただろうか?
体を水平にできるようにして、足裏に絶対に圧力がかからない体勢で下しただろうな。
車か、あるいはヘリコプターか。付き添いの看護婦さんとともに。

…などということを想像しながら、
激痛に気が遠くなりそうになりながら、
最後の方は「もう限界超えてる…」と思いながらも、
なんとか耐え切り、やっと、
16:50、ベシサハールに到着した。
ジープで8時間20分かかった。

山と町の境界の集落、ベシサハールに戻ってきた。

僕はトレッキング開始時にベシサハールに来たとき、「トロンラ ゲストハウス」というのを目に留めていた。
「トロン・ラ」というのは「トロン峠」という意味で(英語では「トロン・パス」)、僕が目指す5416mの峠の名前だから、なんかいいなと思ったのだ。

それを憶えていたから、「トロンラゲストハウスに行きたい」と運転手に言って、連れてきてもらった。

(「なんとなくその名前が目に留まる」というような現象を僕は大切にしている。手がかりとして採用する)

車から降りた。運転手に「サンキュー!」と伝えた。車は去ってゆく。

杖をつき、ヨロヨロと、トロンラゲストハウスに入る。

あー、もう、倒れそうだ。
体力、限界。(極度のガタガタに8時間揺られるだけでも、かなり消耗する)

中に、40歳くらいの男の人がいた。
ここの主人のようだ。
僕が足を痛めてるのは、ひと目見てわかる状態だ。
ほとんど、歩けない。

「泊まれますか?」と聞いた。
「はい、いいですよ」彼は少し、日本語が話せた。
そして「あなたは歩けないので、2階の部屋は無理だ。私が使ってる1階の部屋を今から空けて、荷物を上に移すから、ちょっと待って」と言う。
大変な親切だ。
自分が普段使ってる部屋を明け渡してくれるなんて。
それを、会ってすぐに決断するなんて。

これがトロンラゲストハウスの主人、バスーさんとの出会いだった。

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部屋にはベッド、椅子、扇風機があり、となりにホットシャワーと洋式トイレ、洗面台も付いていた。
ありがたい。
部屋にトイレが付いてると、今の僕にはかなり便利だ。
しかも洋式なのがうれしい。右足に体重かけられない今は。

といっても、右足の痛みは激しくなって、部屋に付いてるトイレに行くのすらも物凄い苦労、という状態になってしまっていたが。

僕は、高度の影響で凍傷になっているのなら、高度を下げたら治っていくだろうと思っていた。
それで3060mから760mまで一気に降りてきた。
気温も上がり、暖かい。
なのに、右足の痛みはひどくなっている。

どういうことなのか…。

わからない。

とりあえず、バスーさんに「足湯をしたい」と言ってバケツとお湯を持ってきてもらった。

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足湯は、気持ちいい。

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だけど、右足の痛みは減らなかった。

バスーさんは「鎮痛剤」の塗り薬を持ってきてくれた。
また、「何かあったら、呼んでください。ドアを叩いたら、すぐ来るから」と言ってくれ、
何かと甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
バスーさんには奥さんや娘もいたが、バスーさんが一番英語も日本語も話せるようで、僕の世話を受け持ってくれた。

この部屋には、窓がなかった。
1階で、食堂に近くて、便利なのだが、窓がない。
窓というのは、たとえ夜でも、外の気配や音や光や、風の様子などが入ってくる。伝わってくる。それが良い。心に風が通る。
窓がないと、閉塞感がある。

この部屋をあてがってくれた心遣いには、たいへん感謝している。もう、ほかに行く気力・体力はなかったから。

けど、孤独な真っ暗な窓無し独房なんやなぁ…。

今の自分にはここがふさわしいのか?

まるで「密室で、逃れることなく、この痛みと向き合え」って言われてるかのようだ。

そんな感じで、波乱万丈の道程の末にたどり着いたトロンラゲストハウスの一夜目が暮れた。

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by kazeture | 2017-07-19 17:46 | ネパール2017 | Comments(0)
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